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  • 執筆者の写真ゴンちゃん

「存在と殺人」(1999)


権祥海


「存在と殺人」(1999)

菅木志雄監督・脚本/横浜美術館制作

渋谷ヒカリエ8での上映会(2018.5.31)


 菅木志雄は、1999年に横浜美術館で行われた個展「スタンス」で、映画「存在と殺人」を発表した。当時横浜美術館で学芸員として勤めていた天野太郎によると、本映画は、200万円の低予算で、約3ヶ月間で撮影されたという。  面白いことは、そういった予算の問題によって登場人物の中には学芸員や美術館関係者が多数含まれている点である。例えば、主人公の赤月役には、横浜美術館の学芸員だった倉石信乃が、エキストラ役には天野、菅などがキャスティングされた。観客は、この人物たちについて事前知識がなくても、彼らが専門的な俳優ではないということは演技を見ればすぐ分かる。また、撮影機材もフィルムは用いられておらず、VHSの録画用だけが作られており、ロケ地も、ほとんどが横浜美術館の周辺や関係者の家の近くの場所である。映画のクオリティーとしては、演技の面からしても、映像の面からしても、B級映画と言わざるを得ない。 ただ、菅が映画のクオリティの問題を抱えつつも、映画の中で実験しようとしたのは、自分の芸術観を登場人物たちとの対話の中で表そうとした点にあったと思われる。(例えば、登場人物たちは「本当に在るものは見えないもの」、「世界は多面的なもの」、「確かな存在はない」、「見えるものと見えないものの不一致」など、極めて非日常的な言語を用いている)  一つ疑問に思うのは、菅はなぜあえて「殺人事件」というモチーフの中にこういったセリフを導入しようとしたのかということである。菅は、この展覧会が開かれた次の年である2000年に『渡海鳴鳥』を、そして2008年にも『樹下草怨』というタイトルのミステリー小説を発表した。どの作品にも、「画家」、「アーティスト」が登場し、事件を一層不可解なものにする人物として描かれている。菅は、犯罪事件という状況の中に、アーティストである自分自身の姿を投影させることで、「世界は単純ではない」という自らの根本意識を、もう一度実証して見たかったのかもしれない。




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