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「東京修学旅行プロジェクト:コリアン編」プラン制作

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・東京修学旅行プロジェクトとは?

 高山明の「東京修学旅行プロジェクト」は、観客がガイドの案内に従って観光地や歴史的場所を訪ねたり、料理や文化を体験するツアー・パフォーマンスである。訪問先としては、ランド・マークのような誰もが知っている場所もあるが、今や痕跡さえも残っていない街中の一角もある。現在まで「東京修学旅行プロジェクト」の台湾編、中国編、タイ編、そして難民をガイドとする「新・東京修学旅行プロジェクト」のクルド人編、中国残留孤児編、福島編が制作された。これらのプロジェクトでは、それぞれの国やテーマに関連する東京の中の場所を訪ね、専門家や関連人物たちにレクチャーや人生の話を聞く。こういった一連のツアーを成り立たせるために場所や人物のリサーチや手配を行なっているのが高山を中心とする創作ユニットPort B(ポルト・ビー)である。Port Bは「東京修学旅行プロジェクト」の制作プロセスを、①プランをつくり(リサーチ・ツアープランを考える)②ツアーを上演し(ツアーの実施・参加)③ツアーをふりかえる(批評・ドキュメント制作)としている。今回住友ゼミで試みたのは、一番目に該当する「プラン制作」を実践することで、高山の作品制作のためのリサーチプロセスを自らの体で辿ることだった。

 

東京修学旅行プロジェクト(Port B/Port東京リサーチセンター)http://port-trc.net/  

・「韓国編」制作の難しさ

 私が今回このプロジェクトを始めるようになったのは、以前参加した「新・東京修学旅行プロジェクト:クルド人編」で高山さんと会話をしたのがきっかけだった。当時私は「なぜ修学旅行プロジェクトの韓国編はまだないですか」と高山さんに聞いた。他のアジアの国として、台湾編、中国編、タイ編はあるのに、情報や材料が一番豊富に思える韓国編が今まで作られなかったのは不思議だったからである。私の質問に対して高山さんは「韓国編の場合、今まで作ろうとはしていましたが、考えるべきことがたくさんありすぎてまだ実現できなかったです」と言った。この答えを聞いた瞬間、すぐ納得してしまった。韓国は、他のアジアの国々に比べて日本との関連性が深い分、未だに続いている両国間のもつれが数え切れないほどたくさん存在していることを改めて思い出したのである。日本による植民地統治下の朝鮮と現在にまで続く歴史問題やヘイトスピーチなどなど、過去を掘り下げることは現在の数々の問題と向き合うことに違いない。

 このような状況を出発点として韓国編を作るとした時、一番最初に問題となるのは、そもそもタイトルを「韓国編」にすることができるのかである。韓国という名称は、1945年に日本から独立してから南北に分断されて以来、1948年に南韓[1]で樹立された大韓民国のことを指す。つまり1948年以後の南側の歴史が韓国編に当てはまることになる。もし「朝鮮編」というタイトルをつける場合、問題はより複雑になる。まず日本の立場からの朝鮮と韓国の立場からの朝鮮はという言葉はかなり違う意味合いを持つ。日本では北朝鮮と韓国の領域を併せて朝鮮半島と呼んでいるが、韓国では韓半島と呼んでいる。韓国で朝鮮という言葉を使う時は、李氏朝鮮または古代国家の古朝鮮を指す場合が多く、現在の韓国を表す言葉としてはほとんど使わない。韓国にとって朝鮮という言葉は現在とはほど遠い言葉かもしれない。「韓国編」の場合は、日本植民地時代に朝鮮から日本へと渡っていった在日朝鮮人の歴史が、「朝鮮編」の場合は、現在の韓国の姿が見えなくなる恐れが存在するのである。

 リサーチのための現地フィールドワークに先立ち、私たちが暫定的に設定したタイトルは「コリアン編」である。コリア(Korea)は、海外との貿易が盛んだった高麗時代に定着した言葉であり、韓国と北朝鮮両方の英語表記に含まれている。[2]そしてコリアンは、韓国や北朝鮮地域のみならず、元々住んでいた場所から離れ、世界各地で定着または一時的に生活している人々を表す意味としてよく使われている。そこで私たちは、東京の中に点在するそれぞれ異なる歴史を持つコリアンタウンを中心にツアー・ルートを構成することで、コリアンを見るための複数の視点を導入しようとした。具体的な場所としては、主に戦前に朝鮮から渡ってきたオールドカマーたちが多く住んでいた三河島エリア、1965年の日韓基本条約以後、韓国から移住してきたニューカマーたちが多い新大久保エリアを調べた。そしてそれぞれの場所に深く関わってきた研究者やアーティストを探し、場所と場所、人物と人物との間を有機的に繋げることを主な課題としてリサーチを進めた。

文:権祥海

 

 

 

[1] 一般的に韓国では、北朝鮮を北韓、それに対する南側を南韓と呼んでいる。

[2] 韓国は「Republic of Korea」、北朝鮮は「Democratic People's Republic of Korea」という英語表記を使っている。

 


  • 日程

初回ミーティング:2019年1月16日

プラン発表:2019年2月4日

  • 参加メンバー

進行:住友文彦

ファシリテーター:高山明、田中沙季

リサーチ・プラン制作:権祥海、峰岸優香、Yishu HANG、堀安祐子、鄭梨愛、宮川緑、長野魁斗、山縣青矢

  • フィールドワーク

2019年1月23日新大久保・新宿エリア

2019年1月29日荒川・三河島エリア

2019年2月3日上野エリア

 

1日目:

新大久保・新宿エリア

​文:峰岸優香

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​文:峰岸優香 (記事あり)

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文:宮川緑(記事あり)

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