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10年後に作成した展覧会ドキュメント

 

ここでは2009年に開催された「ヨコハマ国際映像祭 CREAM[Creativity for Arts and Media]」のドキュメントを、eBook形式で閲覧できるファイルをダウンロードできます。

10年という月日を経て、あらためてドキュメントを作成した理由はおもに二つあります。

ひとつは、参加アーティストや関係者、あるいはこの展覧会を見た人から「あの記録はどこにあるんですか?」と聞かれることがあっても、ウェブサイトがないため開幕にあわせて作成したコンセプトブック的な役割の本(『DEEP IMAGES 映像は生きるために必要か』(フィルムアート社、2009年)しか紹介できませんでした。会期中に起きた出来事などが分かる方法がほとんど無く、主催者の実行委員会が解散するという理由でウェブサイトが無くなったときにもっと他の方法を考えればよかったと後悔することが何度かありました。そして昨年11月、ついに10年経ってしまったことに気づき、私自身もどんどん記憶が薄れる前にドキュメントを作成することを思い立ちました。

もうひとつの理由は、展覧会研究を希望する学生が少なくないことです。これまで自分が見たことがない過去の展覧会を取り上げることに私はあまり積極的ではありませんでした。それは学芸員として実際に作品や展示の鑑賞経験を抜きに語ることなど避けるべきだ、という思いがあったからでした。しかし、若いうちに見られる展覧会の数は限られているし、過去の重要な展覧会であれば関連資料を多く集めることができるメリットは大きい。そうであれば、実際に自分が企画した展覧会の記録をまとめる作業を通して何を掲載し、何が掲載されていないか、という点に意識を向け、残されたドキュメントを重層的に見る方法を探っておくと今後の展覧会研究に役立つはずだと考えたからです。

 

実際に作成するに際には、会期中のイベントの記録などが詳細に記された唯一の記録だった開催後横浜市に提出した報告書を元に編集作業を行いました。公式撮影した会場の記録写真から掲載するための画像を選び、足りないイベントの記録写真は元スタッフに連絡を入れて補完しました。さらに、10年間のあいだに変化したことを当時の関係者(協力機関の教員、参加作家、現在作家として活動している元インターン)と私という世代の異なる4名で鼎談をおこない、それを掲載しました。

ただ、これは前述した問題意識をもとに展覧会の記録をまとめる作業を十全におこなうことを意図したものではなく、人手も時間も予算も少ないほぼ最低限の条件で作成しています。この作業を通して気づいた欠落点を以下に列挙しておきます。a.横浜市の政策(開催意図)、b.ディレクター選考等の開催経緯、c. 企画案の作成プロセス、d.参加作家選考の経緯、e.作品や動線の空間レイアウト、d.アンケート集計結果、e.レビューなどの関連掲載記事、f.予算と決算、g.事業効果の検証、h.作品/企画の批評的検証

さらに、この事業は展覧会というよりも、開催前と開催中の活動を通して映像をめぐる同時代の表現活動を探る複数のイベントを総合的に実施された点に特徴があったことを考慮すれば、一般的な事業記録を想定したこれらの欠落点を反映させれば十全であるとも言えないかもしれません。また、しばしば私自身は作家や協力者、あるいは来場者から個人的な反応をもらうことの比重を大きく感じています。いっぽうで、一つの文化事業が、どのような成り立ちで、どのように企画/運営され、どのような成果を残したのかを過去に遡り確認する必要性はキュレーターや作家だけでなく、芸術、文化政策、批評などさまざまな領域にとって不可欠であるはずです。ひとつの文化事業がある人の眼に立ち現れるのは特定の側面でしかありませんが、実際には複雑な関係性の網の目によって編まれていることを丁寧に理解し、それが現場の実践とアカデミックな研究の双方にとって貴重な積み重ねとなっていくことを期待しています。10年前と同じくデザインを引き受けてくれた新保慶太さんと新保美沙子さん、そして記録写真を撮影いただいた木奥恵三さん、そして編集チェックに付き合ってくれた元スタッフに深く感謝します。

 

 2020年7月

住友文彦

ドキュメント:ヨコハマ国際映像祭 Deep Images

Document: International Festival for Arts and media Yokohama- Deep Images-

 

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*このドキュメントは固定レイアウト型の電子書籍です
*このドキュメントはタブレットなどの大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。
また文字列のハイライトや検索、辞書参照、引用などの機能は使用できません。
*本書の内容はカラーで制作されていますので、カラー表示可能な端末での閲覧を推奨します

抜粋::“Document: International Festival for Arts and Media Yokohama”  

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